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「池松壮亮の目に引かれた」、『柳川』チャン・リュル監督が語るキャスティングの理由

水郷の町として知られる福岡県の柳川。映画『柳川』は、ここを人生に迷う大人たちが漂う。『福岡』(2019年)を撮ったチャン・リュル(張律)監督が、中国のスター3人を主演に、日本から池松壮亮と中野良子を迎えて撮った中国映画だ。

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映画『柳川』より
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  • 『柳川』ポスタービジュアル
  • チャン・リュル監督
  • 撮影現場のチャン・リュル監督。隣(右から2人目)はニー・ニー

水郷の町として知られる福岡県の柳川。映画『柳川』は、ここを人生に迷う大人たちが漂う。『福岡』(2019年)を撮ったチャン・リュル(張律)監督が、中国のスター3人を主演に、日本から池松壮亮と中野良子を迎えて撮った中国映画だ。チャン監督に、製作の経緯や日本人キャストに対する印象などについて話をうかがった。

『柳川』は、自分の命の期限を知ったドン(チャン・ルーイー)が、疎遠だった兄チュン(シン・バイチン)を誘い、かつて2人が恋した女性リウ・チュアン(ニー・ニー)がいる柳川へ旅に出るという物語。兄弟が滞在する宿の主人を池松さんが、3人と交流する居酒屋の女将を中野さんが演じている。

中国に暮らす少数民族の1つに数えられる朝鮮族という背景から、朝鮮族を主人公にした作品などを中国で撮ったあと、韓国に軸足を移して映画を撮ってきたチャン監督。加えて、韓国の大学で約10年間教鞭をとり、中国に戻ったあとも映画祭の若手監督育成プロジェクトでメンターを務めるなど、後進の指導に当たってきた豊富な経験から、国境を越えて映画を撮ること、中国の若手監督の現状などについても語ってくれた。

柳川は、嘘偽りのない感情が生まれる場所


――柳川で映画を撮りたいと思った理由は?

10年ほど前にアジアフォーカス・福岡国際映画祭に行った際、柳川を訪れて、非常に美しく、静かな所だと思いました。こういう所では、嘘偽りのない感情が生まれ得るのではないかと感じたことが、この映画を撮ったきっかけです。「柳川」という地名も美しい。中国人の姓にも「柳」があります。あのような美しい所から連想するなら、男ではなく美女ですよね(笑)。なので柳川(リウ・チュアン)という女性が柳川という街にやって来るという設定にしました。そこで生じる感情を、私は映画で表現できると思ったのです。

池松壮亮を気に入り、年齢設定を変更


――中年男女の愛の物語という落ち着いた作品のトーンと、柳川の少し物寂しい雰囲気がよく合っていると思いました。宿の主人を演じる池松壮亮さんは、3人とのバランスを考えると、年齢的に少し若いですよね。池松さんを選んだ理由は?

当初は兄のチュンと同じ50歳近い男性の設定だったのですが、東京で池松壮亮さんに会って、一目で彼のことが好きになりました。彼も出演したいと言ってくださったので、設定を変えたのです。本作に登場する3人の男性の中で、彼の役は一番若いのですが、人生経験はほかの2人に劣らない。70、80歳で気持ちが若い人もいれば、30過ぎで老成している人もいますよね。

――池松さんのどういうところに魅力を感じたのですか?

まず彼の目です。演じている時、非常に集中した眼差しをしていて、心を乱されない力がある。それに彼の話しぶりや立ち居振る舞いも、実際の年齢より落ち着いています。ご本人も物静かな人で、劇中のドンと似ているところがあると思いました。

――中国の俳優たちとの掛け合いも、とても自然でした。事前に交流する時間を設けたりしたのですか?

事前の交流は特にありませんでしたが、キャスティングがうまくいったということでしょう。池松さんはとても自然で、役柄そのものでした。私は運がよかったのです。何も難しいことはありませんでした。

「夢にも思っていなかった」中野良子との仕事


――中野良子さんの出演に驚く日本の観客は多いと思います。どのような経緯で出演が決まったのですか?

私がファンだったからです(笑)。40歳以上の中国人で、中野良子さんを知らない人はいません。中国で『追捕』(『君よ憤怒の河を渉れ』の中国語題)が公開されたのは、ちょうど改革開放(1978年に開始された経済政策)が始まった頃で、中国人は外の世界がどういうものか知らなかった。映画を通して、東京の街や日本の様子を知ったのです。特に、高倉健さんと中野良子さんが街の中を馬で駆けるシーンは忘れられません。中野さんと仕事ができる日が来るなんて夢にも思っていませんでしたが、オファーをしたら快諾してくださいました。

今回、撮影に参加した若いスタッフたちは中野さんのことをよく知らなかったらしいのですが、オールアップの時、皆がサインや記念撮影を求めに行ったので、なぜかと思えば、親や祖父母から頼まれたそうです(笑)。

――中野さんのセリフは、まるでご自身の言葉で話されているように聞こえました。特に終盤、リウ・チュアンとの会話は、お互いが思うままに話しているようで、かみ合っていません。あれも演出ですよね?

あのシーンは私が現場でセリフを書き、通訳を通して中野さんに意味を伝えてもらいました。その意味をくんで、中野さんに自由に話していただいたという形です。(リウ・チュアン役の)ニー・ニーの話した内容とはかみ合っていませんが、面白いシーンだと思っています。

――チャン監督は中国人(朝鮮族)ですが、韓国でも長年映画を撮り、日本でもこれが2本目となります。中国、韓国、日本で映画を撮ってきた経験は、ご自身の作風や仕事の仕方にどう影響していると思いますか?

中国にいた頃は、韓国で映画を撮るのは難しいと思っていたし、韓国にいた頃は、日本で撮るのは難しいと思っていました。でも後に、どこで撮るのも変わらないと気づいた。人も大して変わらない。もちろん、文化や歴史的な背景の違い、個人の性格や態度の違いはあります。でも人は基本的に変わりません。

だから、映画監督たちは恐れることありません。どこでもいい、感情が生まれた所で撮ればいいのです。その場所に行って撮らなければ、その土地の人情や人々の様子は分からない。だから3つの国で映画を撮れたというのは私にとって贈り物のようなものです。違う国で撮れば、より多くのことを学ぶことができますから。

留学経験者が増えている中国の若手監督


――2022年、中国の若手監督の登竜門的映画祭「FIRST青年電影展」(青海省西寧)で、映画人育成を目的としたトレーニングキャンプのメンターを務められましたね。次世代を担う中国の若手監督を指導してみて、どんな感想を持ちましたか?

選抜された7人の若手監督が3日で短編を撮るというプログラムだったのですが、ほとんど海外留学の経験者だと気づきました。東京藝術大学の大学院修了生の作品が一番よかったですね。東京藝大のことはよく知りませんが、うまく教えておられるのだと思いました。

――以前は、中国の映画監督といえば北京電影学院の出身者が多かった印象ですが、ずっと国内で学んできた監督と、留学経験者の監督たちとの間に、何か違いは感じますか?

違いはそれほど感じません。コロナの影響でここ3年ほど無くなっていますが、最近の若い人は、長期休暇の時に海外に行ったり、中国にも留学生が来たりと、国内にいても、国際的な経験を積んでいるので、海外がどんな様子かは皆分かっています。私たちの世代とは違いますね。私が初めて外国を知ったのは40になってからですから。

留学経験の有無にかかわらず、映画監督にとって視覚と聴覚は重要です。若い世代はスマホが体の一部になっていて、とりあえず何でも、まずスマホで撮りますよね。映像を撮り慣れていて、いろいろなアイデアを持っているというのは、大きな強みだと思います。でも、最後に映画の深度を決めるのは、世界や人に対する考え方です。そこはまだ若いので、ゆっくり培っていけばいいと思います。

《新田理恵》

趣味と仕事が完全一致 新田理恵

大学卒業後、北京で経済情報誌の編集部に勤務。帰国後、日中友好関係の団体職員などを経てフリーのライターに。映画、女性のライフスタイルなどについて取材・執筆するほか、中国ドラマ本等への寄稿、字幕翻訳(中国語→日本語)のお仕事も。映画、ドラマは古今東西どんな作品でも見ます。

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