本木雅弘、滝田洋二郎監督がふり返る『おくりびと』の奇跡と軌跡
日本でも近年にない盛り上がりを見せたアカデミー賞。日本国内での熱狂の中心にあったのは、間違いなく『おくりびと』の外国語映画賞受賞という快挙である。受賞から数日を経た2月28日(土)には主演の本木雅弘が現地から帰国し、滝田洋二郎監督と共に記者会見を開いた。さらに翌週、本作は公開25週目にして興行成績1位という偉業を達成した。第32回モントリオール世界映画祭のグランプリに始まり、アカデミー賞受賞で計61冠を達成した本作だが、ここまでの道のりは決して平坦なものではなかった…。会見で本木さん、監督はアカデミー賞の瞬間の様子やこれまでの軌跡、そしてなぜ本作がここまで多くの人々の心を動かしたのかに言及した。
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下馬評ではイスラエルの『戦場でワルツを』の受賞が有力視されていた今回の外国語映画賞。滝田監督、本木さんも受賞の直前まで下馬評どおりの結果を予想していたようだ。監督曰く「授賞式の中で、大体パターンが見えてくるんですよ。受賞しそうな作品のテーブルにTVカメラが近づいていくんです。外国語映画賞の発表のときは、はるか彼方の『戦場でワルツを』のテーブルのところにカメラがいたんです。そしたらいきなり『Departure』(※『おくりびと』の英題)って。あれ? って感じで本木くんの顔を見ました」とのこと。本木さんもこれにうなずき「候補作を紹介するとき、『戦場でワルツを』に対しての拍手が一番大きかったし、『やっぱりな』という気持ちでした。(プレゼンターの)リーアム・ニーソンが『Departure』って言ったらイスラエルのテーブルからスローでカメラが近づいてくるのが見えました。『えーっ!』って驚いて監督と顔を見合わせて、それから抱き合いました」と語る。ちなみにおもしろいのがこの後の登壇にまつわる2人の記憶。本木さんは意外に冷静に「最初、1人だけ登壇できると聞いていました。だから『いいのかな?』と思いつつ壇上に上がった」と語る一方、監督は「記憶が途切れています」と語り「どうでもいい、おかしなことばかり覚えているもので、トロフィーを受け取ったとき、『(プレゼンターに)ハグをすべきかな?』と考えたことは覚えています」と興奮状態だったことがうかがえるコメント。「でも、みんなで登壇できたのはすごく嬉しかったです」と笑顔で続けた。
本作の製作を思い立ったそもそもの始まりについて「27歳のときのインドへの旅がきっかけ」と語る本木さん。途中で何度か企画が消えそうになったこともあったが「ここまでの長い道のりが、逆にチャンスを近づけてくれたのかな、と思います。映画は生き物ですが、その成長の過程を見届け、求められた時期にみなさんの元に届けられたと感じています」と感慨深げに語り、本作の元となった『納棺夫日記』の著者・青木新門氏への敬意と、滝田監督、脚本の小山薫堂氏への感謝を口にした。
現地でも「ビッグ・サプライズ」と表現された本作の受賞。受賞の直後から様々な評論家やメディアが受賞の理由について言及しているが、当事者である2人の考察は興味深い。監督は「僕らの方が、アカデミー会員のみなさんに『なぜ?』とお聞きしたいくらい」ともらしつつ「ほかの作品を見ると社会性や政治について描いた作品が並んでいました。その中で『おくりびと』は普遍的でパーソナルなことを描いた作品。アメリカの人たちの『争いはもうたくさんだ!』という声を反映しているのかもしれません」と指摘。本木さんは「リーアムが発表の前に『今年の候補作は、言葉は違えどどれも我々に共通するテーマを持っています』と言っていましたが、テロや暴力、犯罪といったものを描いたほかの作品に比べ、この作品の“死”というテーマは個人的なものであり、そこに共感、柔らかい救い、温かい光を感じられ、新鮮に映ったのでは?」と分析した。
本木さんは「この喜びと重みをいかにして忘れていくかが今後のテーマ」と冷静に語ったが、世間の熱狂はしばらく冷めそうにない。『おくりびと』はなおも全国にて公開中。
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